ボクは、浅藍(チェンラン)。16歳。生まれは長安に近い農村(といっても歩いて半日は、たっぷりかかるんだけど)。
最近、長安がスゴイ事になってるって、ボクの村じゃ噂がもちきりで、誰かを見に行かせようって話があったんだ。
別に頼まれた訳じゃないけど、なんていうのかな、居ても立ってもいられなくなっちゃって、仕事のトウモロコシ畑と羊の世話もほったらかしにしてやってきたんだ。サボったことがばれたら、親方と父ちゃんにこっぴどく叱られるんだけど(慣れっこなんだけどさ)、ずっと前から西域人ってのを見てみたかったし、ラクダって生き物に興味もあったしね。
それにトウモロコシと羊の世話っていっても、今は収穫期じゃないから、トウモロコシはただ生えてりゃいいし、羊は草を勝手に食んでるわけだし、毎日変わりばえしないから、一日、いや、2〜3日サボったとしても誰も困ることはないんだよね。
♪今日もトウモロコシとひ・つ・じ。明日も、明後日もトウモロコシとひっつ〜じー。
♪1年後の今日も、10年後の今日も。ずーうっとトウモロコシとひっつ〜じさー。

なーんて、陽気に鼻歌なんかをフンフフンやりながら、歩いてきたんだ。丘を越えて遠くの方に長安の高い石壁が見えた時には、やっぱり興奮したね。「おおー地平線が見えない!」なんて言って、思わず走り出したりなんかしちゃって。
だって、山以外で地平線が見えなくなるってすごくない? すごいよねぇ。
長安に来たのは、ホントに久しぶりだったんだ。前に来た時は、ずいぶんとさびれていて、老人が多いところっていう印象があったけど、この変わりようはどうだろう。自分とそう歳の変わらないのがたくさんいて、農作業着なんて誰もいないんだ(も、もしかして、みんな西域人か?)。みんなすごくオシャレで、なんか場違いなところに来た気がしたよ。
「なんでも、飛賊(フェイツェイ)っていう大山賊の砦が先々月の末に取り壊されたとかで、あの大黄河を渡って……」
「え、渡れるのかよ〜」
「らしいよー」
「でさ、西域からラクダに乗った隊商が続々と交易品を積んで溢れ返っているらしいよ」
「ひょえー」
いや〜。村で聞いた噂の通りでびっくりしたね。建物とか金持ちの豪華な家にも驚いたけど、龍の噴水と、でっけー虎が寝っころがってるのには度肝抜かれたよ。
「あー、そこのキミ、キミ。そそそ、あんただよ、あんた」
そうボクを呼び止めたのは、白く長い髭を蓄え、暑苦しい鎧を着たイカツイ顔のおっさんでした。
「私は、大将軍の孫玄(ソェン
シュィアン)。見たところ、長安は初めてのご様子だが」
「いや、でも、まぁそんなものです。でも、なんで初めてだと? っていうか、大将軍なのに軽いな〜」
「フレンドリーと言ってくれたまえ。それでは、シルクロードの世界を旅するために必要な助言を授けよう。一段階ずつゆっくり説明するのでしっかり聞くように」
「えっ?」
「1.基本行動の操作方法」
「ええええっ??」
ちょ、なに話勝手にはじめてるんだ。って、「ゆっくり」って言ったわりに、えらい早いし。
って、うっわ……。
「あ、あの、さっきから頭の上で、なんか燃えてるっぽいのが浮いてるんですけど」
「ん、どうかしましたかな」
「いや、だから。孫さん???」
「孫玄大将軍様とお呼びなさい」
「あ、はい」
「うむ。いい返事だ。では頼んだぞ!」
ええええっ????
「はよぅ防具屋いけ、この田舎モンがぁ!」
ええええっ?????
こわっ、一体なんなんだ、このおっさん。
自分で大将軍様とか言ってるし、絶対に頭のネジ何本かどこかに落としてるに違いない。そう思うものの、あの異様な浮いた物体の威圧感とおっさんの弩級の迫力、それから根が正直者なのも災いして、言われるとおりに防具屋へ行き、また、雑貨屋で頼みを聞いて、薬局にお使いを頼まれて(自分で行けよ)、外で藁人形を30匹やっつけてこい。という理不尽なことを無理やりやらされる羽目に陥ってしまいました(このおっさん暇そうだから、きっと陰で数えてんじゃないか?)。
藁人形を一所懸命倒していると、ラクダを曳く一人の商人が、長安から西域に出発したのが遠くに見えた。いくら飛族が抑えられているといっても、商人一人は危ないんじゃないの? しばらく思いを巡らせた後、一体どんな人が単身で西域に行くのかひどく気になって、ラクダを追いかけることにしたんだ。
ラクダの主は、なんと若い女性。
遠すぎて顔は分からないけど、藁人形なら蹴散らせるから、護衛のつもりで近づいたんだ。
突然、藪の中から黒ずくめの男が飛び出してきて、ラクダに炎を投げつけて斬りつけた。ラクダはグエッと短く啼いて、よろめいた。女商人は、動じることもなく持っていた弓を引いて青く輝く矢を放ったんだ。
黒ずくめの男は、凍てついたように動きを止めたかと思うと、中空で薄れて掻き消えたんだ。

ほぇーっと見惚れていると、何事もなかったように遠くに消えてしまったんだ。

商人って、かっちょえぇ。うーん。商人になりたいかも。
そうだ、その手があったんだ。商人になろう! それも大商人に!!
ボクの村は貧しくはないけど、立派な商人になって父ちゃんにでっかい家を買ってやろう。
羊だって今よりたくさん飼えるし、トウモロコシのことだって親方にあれこれと頼らなくてもすむし。
よし、決めた! 早速、村に帰って父ちゃんに言おう。藁人形なんて倒してられるかってんだ。
あ! しまった。あの凛々しい女商人、せめて名前だけでも訊けばよかったよ。 |